映画

「普通の人」の映画 PERFECT DYAS

率直な感想を最初に言ってしまうと極めて「普通」。すべてにおいて普通の映画である。

舞台は東京。主人公の平山は毎日、休日も判で押したようなルーティンの繰り返し。朝起きて、仕事に出る。トイレ掃除のルート、昼飯、仕事が終わって銭湯に行くというパターンも毎日繰り返し。几帳面とか、そういう意味ではなく、来る日も来る日も変化を求めない。それでも日々の暮らしには様々変化があり、主人公平山にも影響はあるものの、彼の暮らし方には大きな変更は現れない。

演技力で魅せる

 見終わって最初に思ったのが「物足りないなぁ」というところ。内容があまりに深いのか、私の理解力が足りないのか。全体的に淡々と物事が進み、抑揚に乏しい。おおむね、映画には「転換」があり、そこから話がドンドン進展していく、という行があるものだが、それがない。作中、見知らぬ人と日ごとに紙で書いた丸バツゲームでやり取りするも、これも新たな進展なく終わった。決してつまらない映画ではないのだが、物足りなさを感じる。

 そう言ってしまうと物足りないだけの映画のように感じになるが、そうでもない。この映画で秀悦なのは平山演じる主役の役所広司さんの演技力だろう。特に映画中盤まではほとんどセリフが無い。「ああ」とか「うん」とか「それ」とかいう言葉しか出てこない。ただひたすら目の動きとかしぐさ、演技だけで物語を構成していく。並みの俳優さんではできない。

「今度は今度、今は今」

この映画で最も印象的なシーンは平山と姪のニコと自転車で走るシーンだ。橋に差し掛かり、川下を眺めるシーンである。

ニコ「ここ、ずっと行ったら海?」

平山「うん、海だ」

ニコ「行く?」

平山「今度」

ニコ「今度っていつ?」

平山「今度は今度、今は今」

このあと、二人はそのまま自転車で「今度は今度、今は今♪」と歌うようにジグザグに漕ぎ出す。私はこのシーンが好きだ。ほとんど人に対して自分の思いを伝えない平山が珍しく自分の意思を示したように思う。悩みを抱えている姪に対する厳しさとやさしさがない交ぜになっているシーンに思えるのだ。

そしてこの映画のもう一つの魅力は使われる音楽だ。アニマルズ、パティスミスなど60年代~70年代中心にした昔懐かしい音楽だ。平山は仕事に出かける際に、車載のカセットテープでこういった音楽を聴く。都会で静かに生活する平山というキャラクターを考えると意外な組み合わせ。その組み合わせが何気ない哀愁を感じる。

 平凡な男の何気ない日々と静かな変化。セリフがほとんどないだけに、見る側の想像を掻き立てる映画であることは間違いない。

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なんべぇ
<国籍:日本> <性別:男性> <出身地:北陸> <年齢:還暦を越えました!> <職業:本業はスポーツイベントディレクター> <そのほか:仕事では地方出張が多い>