音楽

エアロスミス 温故知新Vol.11 外部ライターの起用。そして新たな領域へ

Permanent Vacation 1987年

アルバム「Done with Mirrors」でオリジナルメンバーが復活したものの、依然としてバンド内ではドラ〇グ問題を抱えていた。1984年からバンドのマネージャーとして加入していたティム・コリンズは「メンバー全員がドラ〇グから解放されればエアロスミスは1990年までに偉大なバンドにできる」と語り、事実、そのために彼らに薬物リハビリプログラムを受けさせ、回復を促している。またスティーブン・タイラーも「みんなが本気でリハビリをやらないなら俺はバンドを抜けて別のバンドを結成してエアロスミスを名乗る」とまで言ってほかのメンバーにドラ〇グ依存からの脱却を迫った。それほど彼らはドラ〇グの沼にハマっていたと言える。

一方で、アルバム作りについて、スティーブン・タイラー曰く「“Permanent Vacation”は”シラフ“で作った初めてのアルバム」と語った。その甲斐あってこのアルバムは全米で500万枚の大ヒットとなった。また大きな変化としてはプロデューサーのブルース・フェアベアンがバンド外部のライターを積極的に採用したことが挙げられる。当初、バンド内ではこのアイディアに消極的だった。が、アルバムを通して聴くとこれまでのエアロスミスのエッセンスを崩すことなく新たなスパイスが加わっていることに気づかされる。またアルバム構成についてこれまで以上に考えられていてオープニング~エンディングの構成がきっちりできている感がある。

1.Heart’s Done Time

 デズモンド・チャイルドとジョー・ペリーの共作。デズモンド・チャイルドは作詞作曲専門で活躍するミュージシャン。

2.Magic Touch

 フォリナーやジャーニーなどいわゆる「産業ロック」を思わせるメロディライン。スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バレンスの共作。これまでの粗削りなメロディが多かったエアロスミスからは見られなかった新しい側面である。

3.Rag Doll

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランス、ホーリー・ナイトの共作。この曲のタイトルは当初「Rag Time」だった。しかし製作スタッフのジョン・カロドナーが気に入らず、ホーリー・ナイトが歌詞とタイトルを変えた。たったの1文字変えただけでも作詞クレジットされたのでスティーブン・タイラーは激怒したとか。それでもこの曲はビルボードトップ17位にランクされた。

4.Simoriah

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、デズモンド・チャイルドの共作。「シモリア」の由来はヘブライ語で「やさしさの女神」を意味する。

5.Dude (Looks Like a Lady)

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。シングルカットされ全米14位となった。ジョー・ペリーのリードギターはただディストーションを利かせたものではなく、硬質なハイトーンのリードギター。これがこの曲のアクセントになっている。

6.St. John

アルバム唯一、スティーブン・タイラーのみの作。昔ながら(?)のエアロスミスらしいハードロック。

7.Hangman Jury

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。カントリーブルースを思わせるこの曲について、ジョー・ペリーは「アルコールもドラ〇グも使わずにシラフで書いた」という。またこの曲について、自分の息子やいろんな人が賞賛してくれることを驚きとともに喜んでいる。

8.Girl Keeps Coming Apart

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリーの作。ロックンロールというよりもジャズのビッグバンドを思わせる演奏が特徴。

9.Angel

 スティーブン・タイラー、デズモンド・チャイルドの共作。ビルボード順位は当時の最高順位の3位。エアロスミスでここまで完璧なバラードが聴ける日が来るとは。デズモンド・チャイルドの影響があるとはいえ、やればできるんですね。

10.Permanent Vacation

 アルバムタイトル曲はスティーブン・タイラーとブラッド・ウイットフォードの共作。やっぱりブラッド・ウイットフォードは才能あると思う。

11.I’m Down

 ビートルズのカバー曲。エアロスミスとビートルズというと距離を感じるが実はジョー・ペリーはビートルズファンである。

12.The Movie

 バンドメンバー全員の共作クレジットが入る。プログレッシブロックを感じさせるインストルゥーメンタル。まずこれまで考えられなかった選曲。アルバム最後に持ってくるところがなんともおしゃれ。

同じことをやっていても飽きられるだけ

 あくまで「今となっては」という言い訳を入れつつだが、おそらく彼らが「Done with Mirrors」以前の作風をそのまま引きずっていったら「玄人好みのハードロックバンド」「70年代に一世を風靡したバンド」で終わっていただろう。同じことをやっていても飽きられるだけだ。エアロスミスが現在のように映画のサントラ盤など音楽の領域を広げ、幅広い層のファンに支持されるというのは良い意味で予想を裏切っている。このアルバムは外部のソングライターという新しい血液をバンド内に注入し、エアロスミスのDNAを残しつつも新しい遺伝子を組み替えた結果と言える。そういう側面から見てもプロデューサーのブルース・フェアベアン、マネージャーのティム・コリンズは優秀なスタッフだ。

 その予兆はすでに1986年にRUN-D.M.Cが「Walk This Way」をカバーした時から起きている。スティーブン・タイラーは当初、この曲をラップに載せることにあまり乗り気ではなかったというが、最終的にはジョー・ペリーとともにレコーディングに参加している。

 そういった変化を受け入れる度量がエアロスミスにはあったのだ。このアルバムはその結果と言える。

エアロスミス 温故知新Vol.12
エアロスミス 温故知新Vol.10

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