音楽

エアロスミス 温故知新Vol.12 

Pump 1989年 (グラミー賞受賞)

 エアロスミスは前作「Permanent Vacation」から始まる黄金期を迎えつつある。10枚目となるスタジオアルバムでは収録された「Janie’s Got a Gun」でグラミー賞のベスト・ロック・パフォーマンス賞を受賞する。グラミー賞と言えば言わずと知れた権威ある賞で、しかもどちらかと言うと芸術性が高い作品に贈られる賞。エアロスミスというバンドの質感からするとあまり縁がなさそうだが、そういった賞を受賞できる領域にたどり着いたことを意味する。

 アルバム制作には前回のPermanent Vacation同様にブルース・フェアベアンがプロデューサーとなり、バンド外部のソングライターを起用した。作りとしては前作の路線を大きく変えることはなかったが、ジョー・ペリーは「前作で感じた余計なものをそぎ落とすことが必要だった」という。前作ではフォリナーやジャーニーなど、いわゆる産業ロックと言われるような路線との融合という新たな境地を見出したが、彼ら本来の持ち味であるライブ感が失われた感がある。そこを取り戻したかったのだ。しかし実際には大きく先祖返りすることもなく、多少の荒々しさが出てはいるものの、前作同様に洗練された曲が多い。

 ちなみにこのアルバムが発売された当時、この手の音楽は「グラムメタル」と呼ばれた。今となってはあまり使われない言葉だが70年代のグラムロックとハードロックの(メタルロック)を併せ持った曲、と言うカテゴリーだ。ただ正直言ってこの名称はしっくりこない。どうも音楽業界や評論家たちはこういうカテゴライズにこだわるようだが、聴いている方としてはどうでもいい分類と言える。

1. Young Lust

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。もはやエアロスミスの伝統芸能と言って良いハードロック。これまでに比べるとかなり下品な言葉が減ったように思う。

2.F.I.N.E

 スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。“Fucked Up、Insecure、Neurotic、Emotional”の頭文字をとったタイトル。当初、このアルバムはこのタイトル“F.I.N.E”の予定だった。その名残としてジャケットに映し出されているトラックのサイドには“F.I.N.E”が記されている。

3.Going Down/Love in An Elevator

 スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。女性のフロア案内ナレーションから始まり、スティーブン・タイラーの意味深な含み笑いから演奏が始まる。この歌詞はスティーブン・タイラーがエレベータでイチャついていたらドアが開いた、という実体験に基づいているという。またライブでは歌詞を変更してもっと下品にすることが多い。

4.Monkey on My Back

 スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。タイトルをそのまま訳しても何のことかわからないがこれは俗語でドラ〇グ中毒を意味する。

5.Water Song / Janie’s Got a Gun

 スティーブン・タイラーとトム・ハミルトンの共作。この曲は幼少期の児童虐待に対する復讐を歌った。曲の完成のために9か月かかったが、インスピレーションはスティーブン・タイラーがドラ〇グのリハビリ中に薬に頼らざるを得なかった様々な女性から話を聞きいたところによる。また「虐待を受けた女性に誰も敬意を払わないことに本当に腹が立った」という。当初はもっと過激な言葉も含まれていたがゲフィンレコードの担当者が「この曲はヒットするかも」と思い、なおかつ「過激な言葉ではラジオに流れない」ことから歌詞を変更させた。その甲斐あってか、前述のとおり、この曲はグラミー賞を受賞する。また後年、この曲をきっかけにスティーブン・タイラーは傷ついた女性のための慈善団体を設立する。

6.Dulcimer Stomp / The Other Side

 スティーブン・タイラーとジム・バランスの共作。エアロスミスの曲にしてはかなりポップな感じ。映画「トゥルー・ロマンス」の挿入歌にもなった。またこの曲が“Standing in the Shadows of  love”のメロディに似ていると訴えられ、作曲者にホーランド=ドジャー=ホーランドを加えることとなった。双方聴き比べるとたしかに曲の出だしはよく似ている。

7.My Girl

 スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。エアロスミスにしては軽め。良い意味でちょっと箸休め的な曲。

8.Don’t Get Mad, Get Even

スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。これぞエアロスミスのR&B。

9.Hoodoo / Voodoo Medicine Man

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ブラッド・ウイットフォードの共作。ブードゥー教を元にした歌。この曲は元々「Buried Alive」「News for Ya Baby」といったタイトルの候補が挙げられていた。

10.What It Takes

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、デズモンド・チャイルドの共作。当初、この曲はカントリーウエスタン風な曲だったようだ。デズモンド・チャイルドが得意とする壮大なバラードへと変わり、さらにプロデューサーのブルース・フェアベアンがアコーディオンを加えることで完成した。

11.Ain’t Enough 

 スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。ブルース調のイントロからアップテンポなハードロックへと変調する。この曲は日本盤のみのボーナストラック。

シンプルなロックへの原点回帰とミュージックビデオの多用

 ところでこのアルバムには歌詞カードが付いていない。これはレコード会社ゲフィンが歌詞にドラ〇グやセッ〇スに関連することが多いのでペアレンツ・ミュージック・リソース・センター(略称PMRC:子供を不快な音楽から守る団体)からのクレームにつながるのを恐れたため。これは単にビジネスとしての対処という意味だけではなく、彼らが世の中に与える影響が大きくなり、そこに対応するためと言える。

 前作アルバムと比較しながらトータルで聴くと路線自体に大きな変化があったようには思えない。ただ外部のソングライターとの共作が少なくなった分、冒頭でジョー・ペリーが言うようにシンプルなロックという感じが強調されている分「削ぎ落した」という意味はよくわかる。その一方で「Janie’s Got a Gun」のような示唆的な曲が見られるようになったのは大きな変化と言える。またこのアルバムに関連して「Janie’s Got a Gun」「Going Down」「What It Takes」など数多くのミュージックビデオが制作され、さらにアルバム制作ビデオ「The Making of Pump」も制作されている。80年代初頭まではロックがビデオで見ることはほとんどなかったが、テレビでもこういった「動いている映像」が見られるようになったのはこの頃。エアロスミスもそこを意識している。
 バンドはこの12か月に及ぶアルバムセールスツアー「Pump Tour」に乗り出す。

参考:Wikipedia(英)

エアロスミス 温故知新Vol.13
エアロスミス 温故知新Vol.11

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