音楽

エアロスミス 温故知新Vol.13

Get a Grip 1993年

 前作「Pump」から4年。「Get a Grip」久しぶりのスタジオアルバムとなった。彼らもこの4年間、何もしなかったわけではない。特に1990年のほとんどがPump Tourに費やされ、9月には7日間の日本公演も行われた。またアメリカのアニメ「Simpsons」にゲスト出演し、コンピレーションアルバム「Pandora’s Box」もリリースしている。

 アルバム「Get a Grip」はスタジオ版としては通算11作目。1992年から制作が始まり、年内にリリース予定だったが、仕上がりに対してレコード会社のゲフィン側から「物足りない」「ラジオ向きではない」などの意見が出された。そこでここ数年、曲を共同制作しているデズモンド・チャイルドなどと曲を書き直し、レコーディングをやり直したのだ。結局、当初の曲がそのまま採用されたのは「Eat the Rich」「Get a Grip」「Fever」「Amazing」の4曲のみ。ただ熟考した甲斐あってか、このアルバムはエアロスミスにとって初の全米1位となり全世界で2,000万枚を売り上げるベストセラーアルバムとなった。これまでエアロスミスが全米で1位となったことが無かったのも意外だが、これがアメリカのエンターテインメント業界の厳しさというものだろう。

1.Intro

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。文字通り次の曲「Eat the Rich」へのイントロ。「Walk This Way」をフューチャーし、前作「Pump」の曲「F.I.N.E」の歌詞も引用している。

2.Eat the Rich

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。その後のライブでは冒頭の曲として選ばれることが多い。またゲーム「Dead or Alive 4」のオープニング曲や日本ではホンダのインテグラのCMにも採用された。

3.Get a Grip

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。「昔は罪を犯していた。自分をカッコいいと思っていたが、自慢したくはない。一線を越えてしまった。ジグザグに進むべきところをばらしてしまった。Got to get a grip!」まるで自身のドラ〇グとの戦いを現わしたかのような歌詞。実際、スティーブン・タイラーはドラ〇グが自分を破滅させていたことに気づいた、という。

4. Fever

 スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの共作。アルバムの中でこの2人だけで書かれたのはこの曲のみ。リードギターはブラッド・ウイットフォードでスティーブン・タイラーのハーモニカが強烈なアクセントになっている。

5.Livin’ on the Edge

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、マーク・ハドソンの共作。作曲に加わったマーク・ハドソンはミュージシャンであり、作曲家でありテレビタレント。この曲は1992年のロサンゼルス暴動からヒントを得て作られた。当初、音楽評論家の間では決して評判は良くなかったが、全米ビルボード・ロックアルバム・トラックチャートでは9週連続1位となった。また1993年のグラミー賞でロック・パフォーマンス賞を受賞した。この曲のコーラス休止部分でバスドラムが4拍打たれているがスティーブン・タイラー曰く「高校から盗んだバスドラ」だそうだ。

6.Flesh

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、デズモンド・チャイルドの共作。アナログレコード(2枚組)ではB面の1曲目。スティーブン・タイラーの絶叫が冴えわたる。

7.Walk on Down

 ジョー・ペリーの単独作。久しぶりのジョー・ペリーのリードボーカルである。歌詞は「どんなに苦しくてもひたむきに前向きに歩き出せ」というもの。

8.Shut Up and Dance

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジャック・ブレイズ、トミー・ショーの共作。イギリスでのみシングルカットされ、24位となった。1993年のコメディ映画「ウエインズ・ワールド2」でエアロスミスとして出演し、この曲が演奏された。

9.Cryin’

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、テイラー・ローズの共作。テイラー・ローズはこの後エアロスミスとの曲作りを共にする。シングルカットされ、ノルウェー1位、アイスランド、ポルトガル、スウェーデンで3位となり、彼らの曲の中では当時ヨーロッパでは最も成功した曲。またMTVでは1993年に最もリクエストされた曲となった。

10.Gotta Love It

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、マーク・ハドソンの共作。2人のギターソロは聞きごたえあり。トム・ハミルトンのベースソロも聴ける。

11.Crazy

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、デズモンド・チャイルドの共作。歌詞はスティーブン・タイラー自らのドラ〇グとの戦いを振り返るような内容。またミュージックビデオにはスティーブン・タイラーの娘、リヴ・タイラーが出演(当時16歳)。リヴ・タイラーは後に映画「アルマゲドン」でヒロイン役となった。またこの曲は1994年に3度目のグラミー賞(最優秀ロックパフォーマンス賞)を受賞している。

12.Line Up

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、レニー・クラビッツの共作。共同制作者のレニー・クラビッツはバックコーラスとしても参加している。またこの曲はジム・キャリー主演のコメディ映画「エース・ベンチュラ ペット探偵」の挿入曲としても使われた。

13.Can’t Stop Messin’

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジャック・ブレイズ、トミー・ショーの共作。アメリカ国内盤には入らず、海外盤のみのボーナストラック。

14.Amazing

 スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、リッチー・スパの共作。スティーブン・タイラーとともにボーカルを取っているのはイーグルスの初期メンバーだったドン・ヘンリー。曲はバラード調でドラ〇グの苦悩を歌っている。曲の最期にラジオから流れてくるようなスティーブン・タイラーの声で「私たちエアロスミスから皆さんへ。どこにいても忘れないで。トンネルの先の光はあなた方かもしれない。Goodnight」というナレーションとラッキー・リミンダーの「Who Threw Whiskey in the Well」で終わる。

15.Boogie Man※インストルゥーメンタル

スティーブン・タイラー、ジョー・ペリー、ジム・バランスの共作。アルバムを作成する際にDATをそのまま回しっぱなしにして録音されたもの。いわば偶然の産物。アルバム最後に持ってくることで何とも言えぬ余韻を残している。

全部お気に入りの曲(スティーブン・タイラー)

 ところでこのアルバムジャケットは乳牛の乳房にピアスをつけ、太もも部分にロゴマークの焼き印を押す、というものになっている。音楽評論家の中には「史上最悪のアルバムカバー」と評する人や動物愛護団体からクレームも出たが、このジャケットはデジタル加工によって描かれたもの、ということで落着したようだ(昨今の風潮からするとたとえデジタル加工だとしてもダメ出しとなる気もするが)。またスペシャルCDバージョンでは牛革に模した布張り製も発売された。

 スティーブン・タイラーはこのアルバムに収録された曲について「subの曲は無い」という。要するにカバー曲やちょっと格落ちだけど入れておいたという曲は無い、全部お気に入りだ、という意味。このアルバム制作は前述のように結果的に2段階で行われ、最終14曲(アメリカ以外の各国ではプラス1曲のボーナストラック)となったが、その一方でアルバムのために作られながらもエントリーされなかった曲が数多くある。それらの曲は後のベスト盤やwebサイトでダウンロード版となって日の目を見ることとなる。

参考:Wikipedia(英)/アルバムライナーノーツ

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なんべぇ
ハンドルネーム:「なんべぇ」 本業はフリーのスポーツイベントディレクター。すでに還暦を迎えた70年代の洋楽好き。仕事で日本各地の出張が多い。これまで訪れたのは42都道府県。洋楽、映画を中心に最近ハマっている西洋絵画についてもレビューしていきたいと思っています。