ニナ・ハーゲンの逞しさ
ニナ・ハーゲンという人をご存じだろうか。ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)出身の女性パンクロッカーである。父親が脚本家、母親が女優という芸能一家の出身である。ニナ自身、東ドイツでは若いころから有名人で1974年に「カラーフィルムを忘れたのね」という曲が大ヒットしていた。私は最近になって偶然、この曲をNHKの番組で聞いた。歌詞はコミカルな内容だが、実は社会主義国である東ドイツを皮肉った内容で、なぜか政府の検閲も逃れ、当時の国民は皆それを理解しながら聞いていたようだ。
全曲ドイツ語の迫力
その後、西側に亡命。1977年にニナ・ハーゲン・バンドを結成。翌年にアルバム「ニナ・ハーゲン・バンド」をリリースした。
ニナの出で立ちは完全にパンクスタイルである。しかも歌詞は全部ドイツ語。メジャーになってもドイツ語。英語に日和るなど一切なし。私は全曲ドイツ語のロックを聴いたのはこの人が初めてである。聞くとわかるのだが、ドイツ語が持っている、あのゴツゴツした語調がかなり強烈である。スピーカーから唾が飛んできそうだ。それがロックとなってよりパワーアップした圧力を感じる。ただ曲全体の構成をみると意外にも正当なロックというか、ニナの姿かたちほどパンクな印象はない。70年代後半~80年代初頭というとセックスピストルズなど、怒涛のパンク全盛期になるのだが、当時の正統派パンクと比較するとかなりハードロック寄り。個人的にはあまりパンクロックというものは好みではないのだが、ニナの曲に違和感はない。不思議である。今1stアルバムを聴くとさすがに時代を感じるけど。
今も生きる「パンク魂」
東西ドイツの時代からベルリンの壁崩壊、ドイツ連邦共和国に至るまでミュージシャンとして生き抜いたニナはすでに68歳。今では「パンクのゴッドマザー」の異名を持つ。
しかしまだまだ元気で2022年には11年ぶりのアルバム「Unity」をリリースした。
ものすごく洗練されていますね、ニナ。英語も取り入れて。反戦ソングとも言える名曲「風に吹かれて」まで入っている。肩肘張った昔の曲とは違うけど、アメリカやヨーロッパに流れる心地よい曲とは一線を画したパンク魂を感じるよ。
冒頭に紹介した「カラーフィルムを忘れたのね」は同国出身の前ドイツ首相アンゲラ・メルケルにとっても「青春のハイライト」だそうで、連邦首相の退任式でこの曲を選んだ。