Draw the line(邦題:ドロー・ザ・ライン) 1977年
このアルバムが発売され、聴こうと手にした当時、友人から聞いた話が「パッとないよ」だった。実際、聴いてすぐに「あれ?」と思ったのを覚えている。当時の音楽関係者の論評でも賛否両論だった。「賛」の意見で多数だったのは、最も伸び盛りのバンドの新譜、なにしろ前作が「Rocks」なのだ、悪いわけがない、というもの。「否」の大多数の論評は「らしくない」だ。実際、ぱっと聴くとそんなに違和感が無いのだが、何度か聴いていると飽きてくる。ファンは「Rocks」と比較してそれ以上を期待してしまう。そこを越えていないのだ。
「らしくない」ことの最大の要因はバンド内で蔓延したドラ〇グであることは間違いない。特にスティーブン・タイラーとジョー・ペリーは重症だったようだ。実際、ジョー・ペリーは回想録で当時の自分たちのことを「ドラ〇グに手を出したミュージシャンというよりも音楽に手を出したドラ〇グ中毒者」と表現している。また同じく回想録でこの頃を「終わりの始まり」と表現している。
アルバムが発売された当時、時代背景として特に日本のメディアはあまりそういった負の部分を一般的に公表することはなかった。もちろん音楽関係者の間では周知の事実だっただろうが、世間的にはバンドがそんな状況さらされているなど知る由もなかった。しかしファンは出来上がったアルバムを通して違和感を持ったに違いない。
商業的にはノリにノッているバンド、と言うこともあり、またジャケットがイラストというのも斬新で一般受けしたように思う。実際、アメリカではビルボード11位、日本のオリコンチャートは9位、とビジネス面では成功した、と言える。
1.Draw the line
ジョー・ペリーとスティーブン・タイラーの曲。エアロスミス独特のリフレインが印象的。ボトルネック奏法のリードが複雑に絡み合っていい味が出ている。
2.I wanna know why
ジョー・ペリーとスティーブン・タイラーの曲。とにかく一本調子。こういう曲がこのアルバムの株を落としていると思う。もう少しアレンジで工夫が必要では?と思わせる。
3.Critical mass
トム・ハミルトンとプロデューサーのジャック・ダグラスの共作。彼らの中でもあまり聴かれないブギウギ風の曲。プロデューサーが曲作りに参加するなど、あまり無いように思うが、曲作りが進まず、やらざるを得なかったということか。
4.Get it up
スティールギターから始まるストレートなロックンロール。このアルバムでスティーブン・タイラーとジョー・ペリーの組み合わせは「Draw the line」「I wanna know why」とこの3曲だけ。
5.Bright light fright
ジョー・ペリーが単独で作り、リードボーカルも取った。エアロスミスの曲で彼がリードボーカルはこの曲が初めて。「セックス・ピストルズの曲からインスピレーションを受けた」と言う。アップテンポでストレートなロックンロールは後のソロアルバムに通じるものがある。
6.Kings and queens
タイトル通り、まるで中世ヨーロッパの物語を思わせる歌詞。加えてマイナー調のハードロック。どちらかと言うとブリティッシュロックを思わせる。歌詞はジャック・ダグラスとスティーブン・タイラーの共作で曲はジョー・ペリーを除くメンバー。プロデューサーのジャック・ダグラスはこの曲を作り上げるのに大変な苦労したという。彼自身もマンドリンで演奏に参加。みんなで寄って集ってこの曲を仕上げた、という風景が目に浮かぶ。
7.The hand that feeds
ジョー・ペリーを除くメンバーの共作。う~ん、この曲はかなり苦し紛れな感じがする。本当ならお蔵入りするのでは。この程度の曲を選曲しないでほしかった。
8.Sight for sore eyes
アメリカのバンド「ニューヨークドールズ」のデビッド・ヨハンセンとジャック・ダグラス、ジョー・ペリー、スティーブン・タイラーによる共作。デビッド・ヨハンセンのレコードセッション中にできた曲。
9.Milk cow blues
元曲はココモ・アーノルドのブルース曲。これをエルビス・プレスリーがカバーし、それをエアロスミスもカバーした。バンド内ではこの曲は「お気に入り」のようでライブでも頻繁に演奏されている。
今となってはこのアルバムの出来を悪く言う人はあまりいない。あの伝説的なバンド、エアロスミスのアルバムで200万枚以上のセールスに到達したのだから。ただToys in the attickからDraw the lineまで通しで聴くとこのアルバムの迫力不足は否めない。またこのアルバムのクレジットを見るとわかるのはタイラー&ペリーの組み合わせが極端に少ない。だから出来が良くない、という意味ではない。バンドが曲を作ろうとしてもスティーブン・タイラーがなかなか進めようとしない、そんなもどかしさを想像してしまうのだ。結局、この問題はジョー・ペリーの表現そのままに、バンドの死活問題にまで発展してしまう。
参考:Wikipedia
エアロスミス 温故知新Vol.6
エアロスミス 温故知新Vol.4