稀代のエンターティナーである。結成から50年。浮き沈みの激しいこの業界で生き残っている。メンバーは入れ替えもあったがフロントマンであるジーン・シモンズ、ポール・スタンレーがいる限り、KISSを名乗ることは許されるだろう。両名はすでに70歳越え。他のメンバーも60歳を超えている。
ライブに足を運ぶと、観客は老若男女、様々だ。このぐらい息の長いバンドになると観客もそれ相応に年齢を感じるものだが、KISSの場合は違う。初期のファンから受け継がれ、その子、さらにその子へとファンが付く。3世代でフェイスメイクをばっちり決めた親子は珍しくない。ハードロックといわれるこのカテゴリーでこれほどファン層が広いバンドは、そういない。
解散寸前
もちろん、長いバンドの歴史は平たんではない。特に80年からの約20年は苦しい時代。次第に人気が下火になり、主要マーケットのアメリカや日本でも明らかに飽きられていた。バンドメンバーの入れ替え、ソロアルバムなど、「解散」という文字がちらつき始めたのはこの時期だ。素顔を見せないのがKISSのアイデンティティの一つだったが、そのメイクを取る、という禁断の手段に出たのときは、おそらくファンも「そこまでやるか!」という感じだったのでは。この時期、一定のファンはついているものの、かつての爆発力はない。事実、2000年には一時解散を宣言(その後、解散を撤回)。グループはそこまで追い込まれた、と言っていい。
復活。そしてアバターとなる
しかしこれ以降、バンドは再び復調する。一つにはメンバーが固定化されてきたこと。80年~90年はとにかくメンバーの入れ替えが激しく、ジーンとポール以外、誰がいるのかわからなかったぐらい。が、これ以降、エリック・シンガー(ドラム)とトミー・セイヤーが固定化され、今に至る。やっぱりメンバーがはっきりすると聞いている方も安心する。楽曲もジーンとポールの共作、各バンドメンバーのリードボーカルなど原点回帰。これらが功を奏したのか、再び人気が上昇する。2013年には紅白歌合戦に出場。NHKは以前からライブを放送するなど比較的KISSに寛容な気もするが、まさか紅白に出るとは…。もはや一部のコアなバンド、知る人ぞ知るバンドではなく、お茶の間のバンドになったのだ(これは誉め言葉として)。
さて、今後。2023年3月のワールドツアーをもってリアルなライブは終了となる。今後はアバターを使ったデジタルキャラクターとして登場するようだが…。あまり信用できない。このバンド、これまで同じようなことを言いながら毎回違う形で復活するから。良い意味で我々を裏切ってくれることを期待する。